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ただ、この日はいつもとは違い、珍しく彼には連れがいた。
「彩芽さん、すみません。この人が、どうしても連れて行けって」
「どうも。一ノ瀬の上司の小暮です。一ノ瀬がいつもお世話になってます」
「あ……葉月といいます。こちらこそ、お世話になっております」
彼から職場の人の話は何度か聞いたことがあり、小暮さんという人はその中でもよく名前が出てくる男性だった。
見た感じ、私と同世代くらいだろうか。
落ち着いていて、物腰も柔らかい印象だ。
「いや、いつも一ノ瀬がテイクアウトしてくれるコーヒーを飲んでて、それが本当に美味しいんで一度店で飲んでみたいと思ってたんですよ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
「更には、そのコーヒーを淹れてるのが一ノ瀬の彼女だって聞いて、これはもう行くしかないと思って」
彼は職場で私のことを話しているのだろうか。
どんな風に話しているのか、少し気になる。
2人が注文したブレンドコーヒーを丁寧に淹れながら、2人の会話に耳を傾けていた。
「小暮さん、しつこいんですよ」
「何だよ。お前がいつもすぐ1人で行こうとするから、強引についていくしかないだろ」
「いや、1人で行きたいんで」
「それにしても、彼女さん美人ですね。クールビューティーって言われません?」
突然話を振られ、うまい返しが思い付かず「言われません」とだけ返し、あとは苦笑いでごまかした。
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