覚醒

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覚醒

 鈴木さんとの飲み会は、出会った翌月から月に一度のペースで開催されていた。  毎回鈴木さんが探してくれる店はどこも俺にとって居心地がよく、また美味しい料理と酒が楽しめるところだった。  俺と鈴木さんはいろいろな話をした。お互いの妻の話、子どもの頃の話、鈴木さんの病気の話。軽い話がほとんどだったが、けっこう踏み込んで話すこともあった。  鈴木さんは決して建前でものを言う人ではなかった。車椅子であることを引け目に感じて殻に閉じこもっていた俺に、時には厳しい言葉を投げかけることもあった。最初こそ反発した俺だったが、ペースメーカーというハンデを背負っている鈴木さんの言葉だからすっと胸に響いた。何より、鈴木さんの人柄なのだろう。  鈴木さんによって俺は徐々に自分の周りに張り巡らせていた殻を破ることになった。  それだけでも俺にとっては社会との隔たりをなくすきっかけだったが、その年の夏は生涯忘れられないだろう。何といっても、俺は鈴木さんのおかげでカメラを持つことに何の抵抗を感じなくなったのだから。 *ちょっと宣伝 この鈴木さんとの一年に渡る飲みのもようは、『真也さんと鈴木さんの意外と真面目な会話』にてお楽しみください。 https://estar.jp/novels/25808198
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