源平合戦

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源平合戦

『姫、お逃げください』 屋敷への襲撃を受け、皆が自分の身を守るため逃げ惑うなか、 彼だけは私を守るために真っ直ぐこちらへ駆けてくる。 その迷うことのないひたむきな瞳に 私が心を奪われていることは内に秘め、 彼の差し伸べてくれる手を取った。 『助けてくれてありがとう』 心を込めて感謝の言葉を伝えた。 けれど彼の瞳は、私を捉えていない。 ——いつの間にか敵兵がすぐ近くまで来ており、 弓矢をこちらに向け構えてきたからだ。 『きゃ——』 『!!』 次の瞬間、彼は私の前に飛び出すと 目の前でその身に矢を受け、静かに倒れ込んだ。 『あ……ああっ。そんな……嫌!』 ——私はその後敵兵に捕らえられ、源氏の陣へと連れて行かれると そこで散々な辱めを受けることとなった。 数日後、戦の勝敗が決したと言う知らせが入ってくると 『一族の女』である私は処刑されることが決まり、 若くしてこの世を去ったのだった。 意識を手放す直前、 私は目の前で死んでいった彼を思いながら強く願った。 もし生まれ変わることができたなら、 私はまた彼と出会いたい。 もっと平和な……身分の壁などない世で、 もう一度彼と出会って幸せに生きたい—— そんな思いが天に通じたのかは分からない。 私はその後、『この時代』での記憶を残したまま 異なる時代の異なる身分の人間として 再び日の本での人生を歩むこととなる——
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