DIVE TO THE PARADISE

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DIVE TO THE PARADISE

[DIVE TO PARADISE] ポーカーテーブルのディーラー席に立つサーヴァントがカードを繰り終わると、俺と千夏にホールカード、つまり持ち札である二枚を配る。それを見たとき千夏はごく薄い笑みを浮かべた。 俺が現在スモールブラインドであり、その左隣である千夏は当然ビッグブラインドであるから、スモールブラインドの俺は強制ベット額である一ドルチップをビッグブラインドである千夏はその二倍である二ドルチップをあらかじめ賭けなければならない。初めのラウンドはその上で新たに賭けるか降りるかを判断する。先手であるスモールブラインドの俺はそのまま降りも賭けもせずに千夏に回すことにする。チェックを宣言する。 ちなみに今までの勝負でひとり当たり一万ドル宛がわれたというのに、千夏のチップは九十ドルを切ってしまった。もちろんその分俺のチップは増えたわけだが。そんな千夏もチェックと宣言する。 さて、ここからが本番だ。ボードの上には五枚のカードが伏せられて並べてある。これをコミュニティーカードというが、手元の持ち札二枚とコミュニティーカード五枚を使って、より高い役のハンドを作るかがテキサスホールデムのルールだ。 ディーラーは千夏の宣言を聞いて、向かって左から三枚を開いた。これで、五枚のカードが揃い自分が役を作れるかどうかが判断出来るようになる。俺は彼女を見遣る。三枚のコミュニティーカードを見て自信ありげな顔をしてから慌ててそれを消す。余りにも解りやすい反応で俺はつい嬉しくなってしまう。そんなに良いハンドが出来ているなら乗ってやるのが俺の筋というもの。俺は自分のハンドは気にせずに、彼女に喧嘩を売ってやる。五ドルベットと宣言する。この場で初めてプレイヤーの意思で賭けたことになる。すると次の千夏ができるプレイヤーアクションは、ゲームから降りるフォールド、俺と同額賭けるコール、俺以上の金額を賭けるレイズになる。ゲームから降りれば賭け金は戻らないが手札がクズならそうするのが基本だ。コールは先に希望がある場合、レイズしてきたら手札が良い役になっている場合が多い。 まあ、ポーカーはこのプレイヤーアクションではったりをかまして勝つ勝負でもあるから、一概にはそう言えないが、千夏に関してははったり以前にまず表情と視線をなんとかしたほうがいい。あれでは手札が透けて見えるようなものだ。だからといって教えてやる義理もないので黙っている。愉しみが減ってしまうではないか。 彼女は予想通りの反応を見せた。十ドルレイズと高らかに宣言する。きっと役が完成しているに違いない。そして、彼女の宣言を受けてディーラーはコミュニティーカードの四枚目を開けた。俺は心の中で微笑む。千夏といえば少し残念そうな様子だった。俺は確信を持って言ってやった。二十ドルレイズと宣言する。千夏はあからさまに驚いている。現状、俺の賭け金は二十六ドルだから、コールするにしても二十六ドル出さなければならない。それでも彼女は食いついてくる。三十ドルレイズと宣言する。 最後のコミュニティーカードが開かれるも彼女の視線は残り少ないチップの山に向けられていた。彼女は今までに四十二ドル賭けている。残りのチップが大分辛い状況だ。俺は彼女の懐事情を気にしてやる。四十二ドルコールと宣言する。すると、俺の行動に訝しんだらしく不思議そうにするが、次の瞬間には覚悟を決めた顔をしていた。四十五ドルレイズと宣言する。それは賭け金に全てのチップを投げ打った瞬間だった。これでこのラウンドは終了、ショーダウンとなる。
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