3.荒廃した世界で

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***  来た道を戻ったところで、彼女は聖堂の裏へ伸びるもうひとつの道に気が付いた。それは表の道と違って幅が狭く、完全に人の足のみによって造られた道であった。興味本位でその道を辿る。  その道には終わりがあった。  突如現れた断崖によって、ぷっつりと断たれているのである。  マリアは崖の下を覗き込む。  彼女を求めて旅をした、多くの巡礼者たちと同じように。 「まあ。これはまるで――」  一迅の風が、続く言葉を攫っていく。  咄嗟にリベリオは彼女の腕を引いた。はからずも抱き寄せる形になり、彼の広い胸の中で、マリアが驚いて頬を染める。いつもより近い距離で見つめ合った二人は、その短い瞬間を、これから何度も永遠のことのように思い返すのだ。 「……すみません、つい。あなたが墜ちてしまいそうに見えたので」  リベリオは慌てて――けれど、名残惜しそうに――マリアの体を離す。彼女もまた遠退いた温もりに、聞こえないほど小さな溜息を漏らした。 「谷底にあんなに美しい花園があるとは思いませんでした。まるで天国のようでした」  リベリオは答えない。  あの崖の下では、草花は一層の盛隆を見せる。こちらの平原とは、咲き誇る色や形の数が違うのだ。赤や黄色といった同じ名前の色ですら、ひとつとして同じものはなく。見たこともないような異国の植物さえも花を付ける。  天国だ、と彼女が言った花園は、まさしくこの世の果てである。  平原では見ることのできない植物は、いったいどこからその種子を運んで来たのか?  リベリオは、きっといつまでも答えられない。  あれは、巡礼者たちの成れの果て。  褪せぬ乙女を目指して旅をした者たちの終着点。  緩やかに死にゆく世界に絶望した彼らは、乙女の死顔にふたつの感情を得る。  羨望と絶望。  決して朽ちることのない彼女への羨望と。  終わりに向かって歩み続けるしかない自分たちの生に対する絶望。  彼らはそのふたつの感情だけを胸に抱いて、谷底への道を辿るのだ。  あの花園は、巡礼者たちの遺体を苗床に生い茂ったもの。  そんな真実を、彼女だけは知らなくていい。
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