1.硝子の棺に眠る乙女

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1.硝子の棺に眠る乙女

 巡礼――それは、聖なる遺物を目指して信徒たちが歩む遥かなる旅路。その終着点のひとつに、マッダレーナ・マッジョーレ教会も数えられていた。  無骨な印象を受ける重厚な建物は、アルマゲドン(最終戦争)の戦渦においてもその荘厳さを失いはしなかった。ロマネスクの様式を受け継ぐファサードには、見事なすり鉢状の彫刻が施された三連アーチが並び、集う信徒たちを巨大な口で受け入れている。そこから伸びるはラテン十字型の聖堂。光の差さない蒼然な身廊を突き進むと、朽ちてなお息を呑んでしまう黄金の内陣が。かつて地上に君臨したという救世主(メシア)の面影を訪れる者たちに伝えている。  だが、巡礼者が目指すのはそこではない。地下礼拝堂(クリプト)である。  内陣から階段を下りたその小さな空間に、彼女は安置されていた。  硝子の棺に横たわる可憐な乙女。  アルマゲドンの折に神の国へ渡ったはずの彼女は、何世紀も時を経た今でも、生前の美しさを湛えたまま眠りに就いていた。  蠟のような白く滑らかな頬。繊細な影を落とす金の髪。死してなおアーモンドの花のような色合いを残す唇は、薄く孤を描いている。  今にも動き出しそうなその美しい死顔に、伏せられた彼女の双眸はどんな色なのだろうと、焦がれる者が後を絶たない。そうして、褪せぬ乙女を一目見ようと、各地から遥々巡礼者たちが訪れるのである。
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