1:見えるケンジくん

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大林賢治(オオバヤシ ケンジ)はホームルームで配られた進路希望に頭を悩ませていた。 これといって夢はなく、普通に進学して普通に大学へ行って、普通に就職を考えていた彼には実に簡単な問いであり同時に難問でもあった。 夢はない。だけど、漠然とした理想はある。 ある程度稼いで、自由気ままに動画やゲームなど自分の時間を謳歌できる職業に就きたいと、毎日懸命に働く父と母を見て、心から感謝を送りつつ自分はちゃっかりと楽したいなどと甘いことを考えていた。 「一度きりの人生だ。悔いの無い生き方をしたいのは誰だって同じだろう?」 ここでいう彼にとっての“悔い”とはつまり、自分の時間を潰されることに繋がる選択をしてしまうことに他ならないのである。 この話は一言でいえば、誰もが羨む自堕落生活を歩みたい彼と、それを許さない“能力者故の宿命”の物語であった。 《 ーー……! 》 ー ドシャッ! 「はぁ……」 窓の外を落ちていった女の影を横目に見ながら 、大林賢治は盛大に息を吐くと自身の進路希望へ再び視線を落とすのだった。
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