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姉妹はしばらくお互いの温もりを感じ、涙声で別れの言葉を告げた。
「出来るだけ毎日手紙を書くから。ソヨンが頑張ってる分、私もあっちで頑張るからね」
「リョウ……くれぐれも身体を大切にしてね」
「あなたもね。ソヨン」
それ以上のことは何も言えなかった。
村長様のところへ行くのに見送って、ソヨンは村広場へと足を運んだ。そこにはもうすでに多数の村人たちの姿が見える。皆、リョウを送り出すために来ているのだ。
「ソヨン」
そこから出てくる人の姿がある。
ミノン夫妻だ。
「……辛いわね。大丈夫?」
「はい……」
ソヨンは力なく返事をした。そんな彼女の肩に、夫妻は、そっと優しく手をかける
「出生のことも村長さまから聞いたのね? ……でも、私たちのあなたを想う気持ちは変わらないわ。一人暮らしは寂しいでしょうから、家に帰ってきてもいいのよ?」
言葉をかけられ、心が揺さぶられた。
だが、ソヨンは首を横に振った。
自分がきちんと仕事をこなし、毎日を生きることがきっとリョウの望みだから。
今まで以上に頑張りたい。
そう言葉にした彼女に対して、ミノン夫妻は抱きしめて寄り添ってくれたのだった。
――カンカンカン
祝い事や村行事があると叩かれる青銅で造られた鐸が振り鳴らされた。
皆が見つめる中、村長の家から出てきたリョウがいた。
淡い桃色の1枚仕立ての服に、同色の太い腰紐を巻いている。
髪の毛は、しっかりとひとつに結い上げられ、黒い髪飾りが見えた。化粧もうっすらとされており、まるで一輪の花のようだ。
「きれい……」
リョウが新しい服に身を包むなんて、いつぶりだろうか。
ソヨンは目が離せずにいた。
「まあ……ほんとに美しい子ね……」
村人も囁きあった。
そして、迎えに来たトマ参官たちが満足そうに頷き、あっという間にリョウを囲んで出ていこうとした。
「……リョウッ!」
思わず叫んだソヨン。
ピクリと肩を震わせ、振り向いたリョウの顔には、少し困ったような、泣きそうな表情が浮かんでいる。
「か、身体に気をつけて……っ」
それしか言葉が出てこなかった。
リョウは立派だ。
こんなに美しい彼女を見たことがない。きっと向こうでも必死に上手くやるのだろう。
リョウは震える横顔で無言で頷くと、去っていった。
―――どうか、どうかお願いします。神様。彼女が遠く離れた地で元気に過ごせますように―――。
村に春の花びらが舞い降りる。まるでリョウを祝福するかのようなこの風景を忘れることは有るまい。
ソヨンはとめられない涙を拭いもせずに、彼女の背中が消えても立ち尽くしていたのだった―――。
[完]
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