死体検案書

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死体検案書

 父が死んだ。 死体検案書の直接死因の欄には「縊頸(いっけい)」と記されている。 縊頸。 所謂、首吊りだ。   年が明けて間もない、まだ正月気分が抜けない頃だった。 確か、13時は過ぎていたと思う。 夜勤に行く支度をしていた私に、6歳上の姉から1通のメールが届く。 「お父さんが亡くなった。詳しいことは後で連絡する」 心疾患を患っていた父親は、年齢も87と高齢で、いつどうなってもおかしくはない。 きっと心臓発作か何かで急死だったのだろう。 その時はただそう思っただけで、親が死んだという実感も哀しみもなく、取り敢えず夜勤をどうするか。 勤務表を見ても夜勤を代わって貰えそうにない。 でも。 実父が亡くなったのだから、夜勤に行ってる場合ではないのかもしれない。 上司に連絡をすると、案の定夜勤は休めないという。 姉に電話をし「これから夜勤なんだけど、休めないみたいだから。お姉ちゃんは今どこ?」 「は?夜勤休ませて貰えないって酷くない⁉︎」 電話口の向こうはシンと静まり返っている。 気持ち小声の姉は続けてこう言った。 「これから実家に警察が入るから。」
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