某家守近のこと

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その甘い呟きに、徳子(なりこ)は、頬をうっすら染めると、こつんと守近の胸元へ頭を添えた。 と──。 「あら、守近様にもこんなに。女人の暮情が、降り積もっておりますわ。まあ、大変」 やおら、徳子がふうっと息を吐き、守近の肩にかかっている紙切れを吹き払う。 「おお、徳子姫の暮情が、こんなところにまで?」 精一杯、反撃する守近に、 「もう、意地悪!」 徳子は()ねた。 こうして、時おり見せる嫉妬心(しっとこころ)を、守近は、気に入っていた。 もう少し、いじめてみようかと思ったその時、 「長良、(こん)をつめてはなりませんよ。どうです?(わたくし)(へや)へ、来ませんか?珍しい唐菓子が手に入ったの」 菓子と聞き、長良は、顔をほころばすと、はい!と大きく返事をした。 「ふふふ、手習いが、何処まで進んでいるか、細かく、話してちょうだいね」 徳子は、女房達を連れて、しずしずと歩み、その後を、子犬のように、飛びはねながら長良が続く。 (あー、徳子には、お見通しか。長良よ、お前、菓子に釣られて、ペラペラ喋るんじゃあないぞ) 気を揉みながら、守近は、一行を見送った。
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