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「二人をクビになんてさせません。悪いのは部長です。俺は竜崎と河野の証人になります」
それに続くように、中宮さんも席を立ち……。
「部長の言動は、オメガ差別によるセクハラ、モラハラ、パワハラに該当します! 性別じゃなくて仕事振りで見てあげてください! そもそも、優秀なこの二人が辞めたら大打撃を受けるのは会社側ですよ!」
「何なんだお前らまで! 俺は河野にもじゅうぶん優しくしてやってるだろ! 俺が若い頃だったら、オメガには身体使って契約取ってこいって言っても許されたんだ! それを言わないだけ俺は優しいだろ!」
しかし、部長のその発言を皮切りにーー他の社員達も次々に口を開いていく。
「河野君に対してそんな風に思っていたんですか⁉︎ 部長、いくらなんでも酷いです!」
「私もそう思います!」
「私も!」
「部長のハゲ!」
「お前ら全員、俺に楯突くって言うのか! ていうかハゲって言うな!」
やがて、騒ぎを聞きつけた他の課の社員が仲裁に入り、この場はひとまず収まった。
この一件は、社長の耳にまで入ったそう。
社長自身がオメガ社員についてどう思っていたかはよく分からないが、オメガ社員を擁護する社員が増えたことにより、番のいないオメガをクビにする制度は、いったん見直されることになった。
オメガ社員の社内恋愛は推奨されたままだが、番のいないオメガがクビにされる心配はなくなったのだ。
そして……。
「かんぱーい」
ある日の夜、俺は竜崎さんの家にお邪魔していた。
オメガのクビが解消されたお祝いで、二人で飲む約束をしたのだ。
竜崎さんはビール、俺は甘い味のチューハイの缶を、お互いカチンと合わせた。
オメガ社員のクビ候補の件が解消されたことにより、オメガの番であるアルファ社員への対応も、もちろん正当化される。
そもそもアルファ社員への対応の件については営業部長が個人的に言っていただけなのだが、何にせよ性別を理由とした不当な扱いがされないように、改めて社全体で見直し、徹底されるようになった。
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