僕のあるじ

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僕のあるじ

「戦況はどうだ。夜の国ライデンは前線に出張って来ているのか?」 フォーカス様は険しい顔を益々難しくしながら、刻々と変わる戦況を報告させた。 我があるじ、黒騎士団の筆頭参謀であるフォーカス様はがっちりとした雄々しい騎士だ。 長めの癖のある髪は銀色に光って、金色にも見えるはしばみ色の目は心の中を決して映し出さない。 僕は側に控えながらフォーカス様の武具をひとつひとつ外していく。 魔法で冷たくしたスポーツドリンクをイメージしたオリジナルのレモン水を金属のカップに入れて差し出した。 チラリと僕の手元を見たフォーカス様はひと息に飲み干して大きく息を吐き出した。 「いつもながら、シンの作るレモン水は身体に染みるようだ。ここに居る者にも飲ませてやれ。」 僕は準備してあった人数分のレモン水に手をかざして冷却すると下僕に配らせた。 僕をじっとりとした目つきで見ていた、カゼズ軍曹はカップの中を覗くとひと息に飲んだ。 「おお、これは冷たい。しかも何だか普通のレモン水では無いな。コレひとつとっても、フォーカス殿がシンをお側から離さぬという話は本当のようですな。」 「誠に。抜きん出た従騎士は手にする事が難しい時代ですからね。フォーカス様は運が良い。」 ジュード参謀補佐官はそう言って僕にウインクすると、美味しそうにカップを傾けて飲み干した。僕はフォーカス様の後ろに控えながら、表情をころして皆の様を見つめていた。 フォーカス様の散会の合図で皆はガヤガヤと立ち上がり散って行った。幕の中はフォーカス様と僕、二人が残された。 「シン、どうだ。」 フォーカス様は手元の羊皮紙を眺めながら聞いてきた。僕はフォーカス様の足元に跪いて、報告した。 「先程の要人の中にはいらっしゃいませんでした。しかしながら、幕内に控えていたカゼズ軍曹の従者からは裏切りの色が見えました。濃い色ではありませんでしたので、様子を見ても宜しいかと思います。」 フォーカス様は僕をチラッと見て羊皮紙の束を机に置くと、立ち上がって歩き出した。 「シンも付いて参れ。食事にしよう。」 僕は頷くと幕間に鍵の魔法を掛けて、フォーカス様の後をついて行った。 貴族の天幕に入ると騒つきが一瞬鎮まったが、直ぐにまた騒がしくなった。 とはいえ、こちらをチラホラと見るとも無しに注目されてるようで僕は緊張しながらフォーカス様の後をついて行った。 「まだ慣れぬか、シン。」 席につきながらフォーカス様は今日初めて僕の目を見て言った。
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