プロローグ

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 男性不信に陥るきっかけなんて、実に呆気なくそしてありきたりなものだと思った。  お互い仕事に忙しくて会えなかった友人と、久々に昼から会って買い物をして夕食も楽しんだ。昼間に買ったペアのカップのことを追求され、社会人になって初めて彼氏ができたことを白状すると、からかわれつつ自分のことのように喜んでくれた。  ほんの少し、予定より早く解散になったのが良かったのか、悪かったのか。訪ねるには遅い時間ではあるけれど、浮かれた気持ちでペアカップを届けようなんて思いついてしまった。  今思い出しても、引き返せ、とその時の自分に言いたくなる。機会なら二度あった。彼のマンションの下から窓を眺めた時に、寝室の灯りがオレンジ色だったこと。常夜灯の色だとすぐわかる。彼は、行為の時は常夜灯を点けるけれど、眠る時は真っ暗にするのを好むのだ。  この時、微かに違和感を覚えたからだろうか。いつもなら鳴らすインターフォンのボタンを押さずに、私は合い鍵を使って中に入った。
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