エクストリーム

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 僕らは常に何らかの残響を伴う音に囲まれて過ごしている。どれだけ無人で静謐な環境でも「〇デシベルの世界」というのはまず存在しない。耳には感じなくても遠い場所の残響など、自然界では必ず数デシベル程度の「音」が観測されると言われる。  なので一般的な人間の耳、つまり脳は「全く音のない世界」には対応できない。周囲が全くの無音であれば、無理にでも音を聞こうとする。普段は意識することさえない、自分自身の生体活動が発する音をーー  現に僕は、規則的でありながらどんどん早くなる鼓動と呼吸音を聞きたくもないのに聞いているうちに、脳がゲシュタルト崩壊を起こしそうになり、「これはそのうち止まるのではないか」という根拠のない不安がどんどん強くなってくる。  そこに消化器系の発する不規則な音が不協和音のように混じり、三半規管も不調をきたしてくる。  こういった人工的な無音の環境に数十分もいると大抵の人は正気が保てなくなると聞いたことがあるが。 ーーまさかこれもランの「ちょっとした好奇心」を満たすための悪趣味な実験なのか?  めまいと吐き気を覚えて立っていられなくなり、四つん這いになって嘔吐した。 ーー家入さんも同じような部屋に閉じこめられているのか?どうしたらここから出られる……?  通常の環境であれば、耳も脳も単調な刺激に慣れてしまうものだが、他に刺激のない環境下では意識を逸らそうとすればするほど、自分の内面に意識が向く。助かる方法を考えるために集中しようとするたび、言いようのない閉塞感と恐怖感が襲ってくる。  突然、床に突いた手足ごと体が揺れた。明らかにめまいのそれじゃない。 「地震……?」
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