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強い揺れがだんだん大きくなる。
なすすべはなかったが少しでも命を守る行動をとらなければと思い、部屋の中央とおぼしき場所に這って行って体育座りの体制で頭を庇った。
無為に過ごしていた時期は「生きてても仕方ないかな」と思ってしまったこともあるが、とにかく今はまだ死にたくない。
それなのに廃鉱山ごと地中深くに葬り去られる覚悟をしなければならない皮肉。不穏な静寂と狂気しか存在しなかった部屋に、とてつもなく破壊的な衝撃がーー
「渡瀬君!大丈夫?」
気がつくと誰かに助け起こされていた。
微弱で「薄暗い」という範囲だが、久しぶりの光にようやく細目を開けると、埃だらけの薄明かりの中にヘルメットと作業着姿のシルエットがすごく眩しかった。
聞き覚えのある声がもう一度僕の名前を呼んだ。
「家入さん……?」
「よかった、気がついた。どこか痛むところは?」
「大丈夫です」
ただ、室内だというのに凍えそうに寒いと思った。吐く息が白いから、僕の体調や体感のせいではなさそうだ。それもそのはずで、家入さん越しに粉々に破壊されて瓦礫と化した部屋の壁とおそらく鉱山掘削用らしき重機が見えた。
助けてくれたことには感謝するけど……キャラの割に意外とめちゃくちゃする人だ。
しかもこの寒さだというのに家入さんの髪は何故か濡れていて、僕の顔にも水滴がしたたってくる。ひょっとしてこれは……
「無響室だな」
家入さんは幾何学的文様のような吸音材で埋め尽くされた壁の残骸を見渡した。
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