死が二人を別つまで

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死が二人を別つまで

 ミーティアの暴走から半年後――。 「アデル、『元に』戻らなくてよかったのか」  王宮の庭園を並んで歩きながら、シリウスがそう問いかけてきた。    元に戻るとは、すなわち『エスターに戻らなくて良いのか』ということだろう。    殺人未遂事件について、ミーティアが自演だったことを自供したため、晴れてエスターは汚名返上。無実が証明された。  エスターは『妹に全てを奪われ、亡くなった悲劇の令嬢』として巷で話題になり、新聞で特集が組まれたり、舞台演劇の題材になったりしているらしい。  罪人ではなくなったため、経緯を公表しエスターに戻ることも出来る。  けれど、私は首を横に振った。 「私、戻らないわ。エスター自身に罪はないとは言え、『魔女』ミーティアの姉であり、取り潰しになったロザノワール伯爵家の令嬢。あなたの妻……王妃になるには、外聞が悪すぎる。きっと国民の反発もすさまじいでしょう」  それに、と私は言葉を続ける。 「エスターの人生に未練はないの。アデル(わたし)には、愛情深い両親がいて、頼れる侍女兼友達のソニアがいて――そして、シリウス。あなたという素敵な恋人がいる。もう十分、幸せ」  私の言葉に、シリウスは優しく微笑み「分かった」と頷いた。そしてちらりと背後に視線を送り、控えているライアンとソニアへ目配せする。  二人は心得たとばかりに一礼し、その場から離れる。    人払いを済ませると、シリウスは私の手を引き奥へと進んだ。
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