花園に秘す

10/30
100人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「あぁ、もう……。泣くな……君の涙には弱いんだ」  ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、流伊(るい)はそっと、親指の腹を芽衣子(めいこ)の目尻に当てがい拭い止める。  そんな彼にやはり胸を高鳴らせながらも、芽衣子は別の意味で申し訳なく感じていた。 ――流伊さんの綺麗な指に、私の白粉(おしろい)が……  きっと今自分の顔は、いつも以上に冴えない童顔になってしまっているに違いない。  薄らと白く染まったその指の腹を見て、嫌でも化粧が多少落ちてしまったことが分かる。  申し訳なくて、でもその優しさに満ち溢れた指を払うことなど出来なくて。  おろおろと視線を泳がす芽衣子に、痺れを切らしたのだろうか。流伊はどこか不満げにその(グリーン)を細めた。 「今日は君にとって特別な日だというのに、笑ってくれないのか?……うん?」  ならば、仕置きだ。――そんな言葉が小さく耳朶(じだ)を打つや否や、その麗しい(かんばせ)が徐々にこちらへ近付いてくる。 ――……っ!?い、今は駄目ーーっ!  芽衣子は咄嗟に、両手を広げて目の前に突き出した。 「お化粧……!お化粧を直させてください……っ!私、今きっと酷い顔だから……。お礼はその後きちんとさせてください。……き、接吻(キス)も含めて……」  半ば早口に、しかし最後はモゴモゴと語尾を(しぼ)めて言い切ると、たっ……と"cafe"の看板目指して駆けたのだった。  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!