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特に言葉に関しては相当なカルチャーショックだった。
幼い頃から海外での生活が長く続いた私は、日本語よりは英語のほうがはるかに自分に近しい言語だった。
しかし、両親は日本に帰ってから私が不自由しないようにと、家庭内で丁寧に日本語を教えてくれた。
父は日本語というものはとても難しいが、世界で一番美しい言語なのだから美しく使うものだと教えてくれた。
そう教えられていた私は日本の学生や若者が使う、ウザいとかマジ、キショい、ヤバイなどという言葉の意味が全く分からなかった。
一体、何処の国の言葉なのだろうと本気で思っていた私に、夏姫が呟くように云った言葉が今でも忘れられない。
「あれは日本人であって日本人ではないのよ。自国の文化や言葉を誇りにも大切にも出来ないfoolなの」
彼女は肩を大げさにすくめると、茶目っ気たっぷりにそう言ったのだ。
欧米諸国の人々は自国の文化や風習を大切にし、敬い、誇りにしている。
今の日本の若者たちはそういった考え方が希薄なのだと薄々感じていた私は妙に納得したのだった。
「今、この国では外国人のほうが余程正しくてキレイな日本語を使っているわ。彩は変な日本語を覚えちゃダメよ。今時、珍しいくらい美しい日本語を使って話せる女性なんだから。あなたはあなたのままで……そう、今のままでいいと思うわ」
そう言ってくれた彼女とは今でもとても良い関係が続いている。
専攻学部は違うけれど、時間を見つけてはお茶を飲みながらお喋りしたりショッピングに出掛けたりしている。
一人っ子の私にとって、彼女は双子の姉のような存在だった。
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