眷属なるモノ

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 犬の首輪とリーシュを拾い上げ,辺りを見回した。月がやけに小さく,満点の星空が明るすぎるくらい辺りを明るく照らしていた。 「真嘉内,富岡の婆さんの家,どこかわかるか?」 「ええ……家にあがったことはありませんが……一人暮らしなのと,婆さんの家には犬のほかに猫がいるのは知っています。探せばすぐ見つかると思いますよ」  山本はリーシュを手に持ち,犬の繋がれていない首輪を見た。 「真嘉内……実は俺……めっちゃ動物好きなんだよ……。人間を銃で撃てても,動物は無理だ……。こいつに繋がれてた犬には可哀想なことをしちまったな……」 「あ……あの,富岡の婆さんのほうは……?」  満点の星空の下でリーシュを手に持った山本は真嘉内を見て,申し訳なさそうな表情で笑顔を見せた。 「お前……よくあんな不味そうな人間(エサ)を喰えたもんだな。年寄りなんて骨と皮ばっかりだし,なにより臭そうで不味そうだ。喰うなら,雄でも雌でも若いほうがいい。それから動物はなるべく殺すな」  真嘉内はため息をついて,夜空を見上げた。山本が人間に対して何も感じていないのは感覚として分かっていたが,同時に警察官としての責任感が胸を締め付けた。 「先輩……俺ら,警察官なのに,市民を守ることどころか,人間を食事(エサ)としか見れないっすね……。昨日までの俺,なんだったんだろう……」 「ああ……」 「先輩。やっぱ,うちら,鬼なんじゃないっすか? 富岡の婆さんが言ってた通り……」 「かも知れないな……」 「しかも俺,死んでたのに先輩に犯されて復活してるんですけど。これってやっぱ先輩に蘇らせてもらってますよね? なんかケツを掘られて蘇るとかキモイっすね。それに先輩の眷属みたいになるんすかね?」 「そうかも知れないな……」 「死んで復活したり,内臓引き抜いて人喰ったり漫画みたいな話ですよね。もう,俺のことゲイゾンビって呼んでいいっすよ」 「いや……それはなんか俺もちょっとやだ……」 「可愛い後輩を犯っといて……? マジで死姦してる先輩とかドン引きっすよ。でも,まぁ,生き返ったし……じゃあ,あの,なんて言うか,取り敢えず逃げますか。富岡の婆さんの家を見つけて,着れそうな服があるか見てみましょう」 「そうだな。そしたら,取り敢えず逃げるか……誰から,何から逃げるのか,よくわからないけどな……」
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