合法的命の終わり

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 今男は、絞首刑を実行されようとしている。あまりにも罪を重ねすぎた。奪った命は数知れず。被害者家族達は死刑を訴え、判決後涙ながらに墓前に報告できると語った。更生の余地なし、反省もしない、判決からわずか二年という短さで執行となった。  踏板の上に立たされ首にロープがかけられる。執行室の隣にあるボタン室に、執行ボタンが複数あり数人の刑務官によってすべてのボタンが押されることで踏板が開き、落下する事になっている。  震える一人の刑務官。それに気づいた別の刑務官が声をかける。 「顔色悪いけど大丈夫か」 「す、すみません。俺初めて立ち会うんです。さっきまで平気だったんですけど、急に……怖くなって」  その言葉は聞こえていないはずなのに。死刑囚の男は、あはは、と笑いながら言った。 「ボタン押すだけだろ。仕事なんだから、別に罪悪感抱く必要なんてないだろ。じゃあ可哀想だからやめるのか? 遺族は泣いて喜んだんだぞ?」  その言葉に、刑務官はびくりと体を震わせる。他の刑務官が男を黙らせるように注意をするが男は喋り続ける。 「マニュアル通りボタン押すだけでお前は給料がもらえるんだ、何も問題ないじゃないか」  別の刑務官が早くボタンを押せと促す。震える手で、ボタンに指を近づけた。そのタイミングを見ているかのように、男は笑う。 「可哀そうにな。お前が何かしたわけじゃないのに、お前は合法的に殺人を背負わされるわけだ。なかなかすごい法律だよな、死刑って。先進国でせっせと死刑執行してるのは日本だけだ」  刑務官が、ボタンを押す瞬間。 「初めて人殺すのはどんな気分だ?」 END
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