合法的命の終わり

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 男は中学、高校と特にこれといって何もせずに過ごし、楽な道を選び続けた。勉強が嫌いだから勉強しないでいたら高校の授業についていけず中退。バイトを始めてはきついと辞めてしまい長続きしない。親からは「成人までは面倒見るが、その後は出て行け」と言われた。気にしないでいたら本当に追い出された。開けてくれと騒いで警察を呼ばれたあたりでようやく本当に見捨てられたんだと気付いた。  だって、努力も苦労も大嫌いだ。楽に生きたいと思うのは別に普通だ、悪い事でもない。何故昔ながらの生き方の枠にはまらないと一人の人間として認められないのか。世の中が間違っている。  長時間労働じゃなくて、楽で、高単価で、スキルや専門知識がなくてもてきとうでも続けられる仕事はないものかとだらだらと求人を見る毎日。貯金が尽きる前に仕事を探したいが、職業訓練所に行くなどゴメンだった。  そんな中、一つの求人が目にとまった。日給一万、資格や年齢不問、短期間でも可。長期できる人はさらに給料アップという夢のような内容だ。男は飛びついた。面接をしたら即採用、さっそく業務の説明を受ける。 「どのくらの時間働くんですか?」 「そうですねえ、好きなだけどうぞ。三十分の人もいれば、五時間働く人もいますよ」 「え、日給ですよね?」 「はい。三十分働いても五時間働いてもお給料は同じです」  なんだそれは、だったら三十分で一万もらった方が良いに決まっている。職場に案内されながら、担当者は説明する。 「簡単な内容なんですけど、辞めちゃう人が多いんですよ」 「え、それってやっぱりツライってことですか」 「肉体労働はほとんどないです。精神的にきつくて辞めちゃうんですよね」  案内されたのは、殺処分装置の前。装置の中からは大量の犬の鳴き声が聞こえる。
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