降り積もる声はもう聴こえない

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 桜が舞い散る並木道を子どもたちが笑いながら駆け抜けて行った。足元に降り積もる花びらは地面に近いほうは黒く変色し,その上を真新しい花びらがピンク色の絨毯のように辺り一面を敷き詰めていった。  近藤絵梨花(こんどうえりか)は,この春,中学受験に失敗した。小学校三年生の夏から中学受験に備えて進学塾に通い,中学受験を専門とする家庭教師に週三回勉強を教わっていた。  両親は有名進学校以外の受験は許してくれず,絵梨花の家族にとって中学受験が生活のすべになっていた。  そして有名私立中学校を二校受験したが,どちらも日本でトップと言われる超難関校で知られていて,この二校以外,絵梨花の両親にとって選択肢はなかった。  塾の成績は申し分なく,絵梨花が受かる前提ですべての人生設計(プラン)が既に考えられていた。しかし二次募集でも失敗し,そのプランが崩れた瞬間から絵梨花と両親の世界のすべてが変わってしまった。  母親はまるで自分の人生が終わったかのように泣き叫び,自らできるすべてを捧げたのにもかかわらず何もかも台無しだと塾の講師たちを何時間も問い詰めた。家庭教師を訴えると家庭教師センターに押しかけ,ドアを壊して警察沙汰になった。  父親は家庭を避けるようになり,いままで以上に仕事の帰りが遅くなっていった。急激に家族での会話が減り,揃って食事をすることがなくなった。
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