12人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
あの日
ーー今でも、思い出す。あの日のことを。
あの日見た宇宙人の姿は今でも鮮明に覚えている。
大きな瞳に青白い体、瞳のわりに合わない小さな口。
その不気味な瞳は、オレの弟を捉えていた。
・・・オレは、何も出来なかった。
その時、オレはたまたまトイレにいて、物音で少しトイレのドアを開けたところだった。
「助けて、助けて!」
もがく弟の声に、駆けつけた父さんと母さんがその状況に愕然としていたが、なんとか正気を取り戻して、台所から包丁を持ってきて、宇宙人に襲いかかった。
・・・オレは怖くて、何も出来なかった。
そして、次の瞬間、鈍い音が聞こえた。
オレがトイレから出てきた時には、もうすでに父さんと母さんは息絶えていた。
そして、弟の姿も消えていた。
オレは、恐怖に立ち尽くすことしか出来なかった。
その後、警察に保護されて、事情を聞かれた。
見たもの、聞いたもの、全て話したけれど、警察や人々は哀れみの目でオレを見つめるだけだった。
ほんとなのに。ほんとのことなのに。
・・・誰ひとり信じてくれなかった。
ただでさえ、何も出来なかった自分に失望していたのに、信じてくれる人もいず、事件も解明されないまま、オレはヨーゼフ孤児院に入れられることになった。
なにせ、オレの親戚たちは皆、オレが精神的ダメージを受けてると思い込んで、引き取るのを躊躇ったからだそうだ。
オレもひとりになりたかったから、それはそれで有り難かった。
別に、哀れみの言葉や同情の言葉が聞きたいわけじゃなかったから。
ヨーゼフ孤児院の人達は皆んな優しくて、あったかかった。
先生たちは、みんな何も聞いてこなかった。
ただ、楽しく笑って喋って過ごしてくれた。
しかし、同い年のフィリーとマリゲルタだけは違った。
オレたち3人は、同室で過ごしているだけに、オレの事情を知りたがった。
「お前らは信じないと思うけど・・・」
オレがそう言って事件のことを話すと、
「えっ、宇宙人見たの?凄いね!」
フィリーは好奇心で目を輝かせ、
「宇宙人は何のために弟を拐おうとしたのかしら?」
マリゲルタは推理を始めた。
その時、オレは思った。
ーーコイツらなら、全てを信用できる、と。
最初のコメントを投稿しよう!