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プロローグ
アシュアの話なんて誰も信じなかった。
宇宙人がいる、なんて。
そして、宇宙人に家族を殺された、なんて。
10歳の子供の証言なんて、誰も信じなかった。
ただ、父と母を殺され、その上、弟も行方不明となった辛さに、アシュアが耐えられなくなって、訳の分からない発言をしたのだろうと、そう、解釈されたーーー・・・・・・。
「アシュアー!!」
広々とした草原の中を、フィリーは軽快に走ってくる。茶色がかったさらさらの髪の毛は、サラブレッドのように艶めいている。緑色の透き通った無邪気な瞳は、真っ直ぐアシュアを捉えていた。
「・・・なんだよ。」
アシュアは目を閉じたまま、フィリーに言った。
「こんなところで昼寝してる場合じゃないよ!うさぎの赤ちゃんが産まれたんだ!早くこっちに来て!」
フィリーは目を輝かせて言った。
「・・・ったく。人が安眠しようとしてるのに・・・。」
アシュアはぶつぶつ言いながらも、フィリーの後に続いた。
春風が、ここ、ヨーゼフ孤児院を暖かく吹き抜けていった。
ヨーゼフ孤児院の敷地は、たいそう広く、建物のまわりには広々とした草原が限りなく続いていた。
ヨーゼフ孤児院には、親を亡くした子供や、身寄りのない子供、様々な事情を抱える子供達が50人ほどと、住み付きで子供達の面倒を見る先生方が10人いた。
年齢こそ様々であったが、10歳でこの施設に入ったアシュアは、同い年の、ビビリで臆病な男の子フィリーと、冷静沈着な女の子マリゲルタと次第に打ち解けるようになったのだ。
アシュアがここに入ってきた時、アシュアの精神状態は、かなり不安定なものであった。
それもそのはず、父と母を何者かに殺害され、その上、弟も行方不明になったのだ。
警察が隈なく捜査するも、何も手掛かりは見つからず、犯人さえも目星がつかなかった。
そこで重要になるのが、唯一現場にいて生き残っていた男の子、アシュアの証言だったのだが・・・
「・・・う、宇宙人が家に入ってきて、弟を連れ去ろうと、し、して・・・お父さんとお母さんが止めに入ろうとしたら・・・こ、殺されたんだ・・・。」
アシュアは、体を震わせながらそう言い放ったのだ。
アシュアの周りにいた人々は耳を疑った。
「・・・宇宙人、だって?」
「可哀想に、きっとショックで頭をやられてしまったんだな。」
アシュアの発言は信憑性がほぼなく、ついにはこの事件は闇に葬り去られてしまった。
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