プロローグ

1/8
653人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ

プロローグ

笑ってれば、きっと。 「おはよおーございまーす! 今日から生徒会会計になる、朝宮睦月(あさみや むつき)です。よろしくお願いしまーす」 生徒会室の扉を開け、俺は頭の中で何度も練習した言葉を口に出した。 中にはすでに俺以外の生徒会役員は揃っていて、みんなぽかん、とした顔でこちらを見ている。 どうしたんだろう? 「んーと、どーかした?」 「いや、こっちのセリフだ。急にどうした?」 手に持っていた書類を机に置いて、黒髪の少年が俺に一歩近付く。 「かいちょー」 俺よりもやや背の高い少年に合わせて目線を上げる。 生徒会長の高嶺涼介(たかみね りょうすけ)は、俺の頭を掴もうとして、《背後の彼》にその手を払われた。 「ん、えっとー、今日は4月1日でしょ?」 「そうだな」 払われた手の甲を軽く撫でた会長の涼介くんが、穏やかな笑顔で俺の問いに答える。 普段クールな涼介くんは、めったに笑うことはないけど、時々すごくかっこいい顔で笑う。 その笑顔に促されて、俺はすんなりと疑問を形にした。 「俺、昨日までは1年生でー、来期生徒会会計だったけどー、今日からは2年生で、今期生徒会会計になるから、挨拶したんだー……もしかして、違ったー?」 俺は1年生の3学期の選挙で2年次の生徒会に選ばれた。 だから2年生になるまでは、次の生徒会会計だったわけで。 顔合わせはとっくにすんでいたし、この部屋に入るのも数えきれないほどしてるけど、会計としては初めてだもんね。 「ふふ、いえ、間違ってませんよ。挨拶が出来て偉いですね。生徒会副会長の鷺原奏(さぎはら かなで)です。よろしくお願いします」 挨拶をしてくれたのは副会長の奏くん。 奏くんは、サラサラな暗めの茶髪が肩くらいの長さに揃えられている。 眼鏡の奥の目はいつも優しくて、俺なんかに優しくしてくれるんだ。 涼介くんが手を差し出してくれたので、俺は握手ーと、手を握り返した。 「うん、奏く……あ、副会長、よろしくー」 「なんで呼び直す、奏でいいだろ」 涼介くんが首を傾げて、握られた手を見ている。 握手したかったのかな? 「生徒会役員になったからー役職の名前じゃないといけないかと思ってー」 俺は答えながらも、涼介くんの手を取って、奏くんの手と握手させてあげた。 すぐに離れてたけど。 なんでだろ? 生徒会役員は3人なんだから!仲良くしようよ! 「そんなこと言ってると、睦月の《後ろの彼》が複雑な顔してますよ?」 「え?」 苦笑した奏くんが、示した先を振り返る。 朝からずっと一緒にいた彼が立っていた。 「いいんちょ?」 「……だから朝から俺のことも委員長だったのか」 精悍な顔立ちで眉間に皺を寄せた彼が、ゆっくりとため息をつく。 刈り上げられた黒髪。鋭い目付き。俺よりも頭一つ高い身長。 今日から風紀委員長になる彼は、篠岡一馬(しのおか かずま)。 違うクラスだったのに、1年生の頃からずっと俺なんかといてくれて……。 あ、さっき涼介くんの手を払ったのも一馬くんだよ。 なんでかはわからないけど。 「えっと、ごめんねー……嫌だった?」 「いや、嫌と言うか」 ずっと一馬くんって呼んでたし、奏くんと涼介くんよりも長い付き合いだから、お互いに慣れないのかもしれない。 不安になりながらも見上げると、一馬くんは視線をゆっくりと俺から外した。 そんなに嫌?! 「いいんちょ、って呼ぶの、嫌?」 「……悪くない。何故かぐっとくるものがある」 一馬くんは両手で俺の肩を掴みかけて、途中から握手に切り替えた。 手が大きいから俺の手がすっぽりだ。 すごーい! 「えへへ」 「破壊力すごい」 思わず笑顔になると、一馬くんは一瞬で真顔になった。 なんで? 一馬くんは普段から怒ってるみたいな顔に見えるけど、いつも怒ってるなんてことはなくて、実はよく見ると表情が結構わかりやすい。 たまになんでその表情?って思うことはあるけど。 「睦月に呼ばれるなら、なんでも構わない。……呼んでるのが、睦月だから」 一馬くんが目尻を緩めて、微笑んだ。 俺に向けられた笑顔に嬉しくなって、俺は一馬くんの手をぎゅっと握り返した。 「うん、ありがと〜」 生徒会会長の涼介くんと、 生徒会副会長の奏くん、 風紀委員長の一馬くん、 そして、生徒会会計の俺。 これからまた1年よろしくね〜! 「全然伝わってないですね」 「委員長、先は長いぞ」 「覚悟してる。気長に行くさ」
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!