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深山に埋もれる集落に住む者たちは,自然とともに生き,自然のなかで天寿を全うしてきた。それがこの地で産まれた者たちの宿命で,昭和中期まではその定めに逆らう者は皆無だった。
日本の経済が右肩上がりになり大学進学が当たり前の時代になると,集落で暮らす若者たちも東京や大阪の大学に進学した。
当時,年寄りたちは若者が都会の大学に行くことに疑問をもたなかったが,堰を切ったように集落から若者が消え,僅か二十年で年寄りしか住まない限界集落へと姿を変えた。
十年以上前から年の瀬が近づくと,村役場に総務省からの質素な手紙が届くようになった。それは村が限界集落として指定されていることの通知で,郵便局長であり診療所の院長である名ばかりの村長は,御国からの通知を家にある神棚の宝くじの横に供えた。
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