湖底に降り積もる罪と罰

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 数十年に一度,酷い旱魃(かんばつ)が長く続く年は,乾いた空気に侵されて干し上がったダムの底から,かつてそこで生活していた者たちの故郷(ふるさと)が姿を覗かせた。  長い間冷たい水に沈んだ木々は葉を落としているものの,かつての姿を残して白い枝が無数に伸び,神社の鳥居は色を失っていたがその姿は昔のままだった。  小学校の跡地は校庭に鉄棒や半分地中に埋められたタイヤが見え,二階建ての木造校舎は窓ガラスこそなくなっていたが,当時の子供たちの落書きも消えることなく残り,その姿はダムに沈む前と変わらなかった。  僅かに変わっているところは,ブランコはチェーンが複雑に絡み合い,二宮金次郎の頭はどこかに消え去っているくらいだった。  そしてこの地で眠る祖先の霊が祀られている神社と墓地がすっかり姿を現すと,子孫たちは花や豪華な食事を持ってかつてと同じように墓を磨き,お供えをして墓前で手を合せた。
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