地に呼び戻される

　住宅街の中心にある貯水池は，人が入れないように高いフェンスで囲まれ，その周りを高い木々が隠すように植えられていた。

　四十年ほど前までは，地元の子供たちがブラックバスを釣る池として誰でも水遊びができた貯水池は歴史が古く，昭和初期の資料には違う形で多くの記録が残っていた。

　地域の古い歴史をまとめた資料が市役所にあり，小学生は必ず一度はこの地域の歴史を知るために授業の一環として市役所内に常設されている展示を見ることが決まっていた。

　モノクロとセピア色の写真が展示された部屋には，昔と今の街の移り変わりが比較されており，子供たちのテンションが上がる展示物が数多くあった。

　とくに有名なモノクロ写真には，池で釣りをする着物姿の大人と，その脇に子供たちがしゃがみ込んで釣り糸を見ている姿が写されていた。

　当時はまだ池の周りには自然が残り，この一帯は雑木林で民家は一軒も建っていなかった。そんな雑木林も四十年前に伐採され，しばらくの間は市が管理する公園として利用された。