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1.
「ハァ、ハァ、、
つかまえたぜ。
このネコ、どうしてくれようか」
30過ぎ独身男のひとり住まいに訪ねてくる者などこれまでなかったが、うっかり開け放した窓からおジャマしたのは一匹のネコであった。
追い出すだけならたやすいと考えたのが林ヤスオの浅はかさだ。
1時間におよぶ格闘の爪痕は崩れ落ちたマンガ本と引きちぎれたカーテン、カーペットについたコーヒーのしみ、そして、、、
「お前なあ、これどんだけ苦労して手に入れたと思ってんだ!」
いく度もの抽選の末、ようやく栄光を勝ち取った入手困難なゲーム機「ゲームステーション5」に くっきりと三本のツメあとが残されることとなった。
「牛か豚ならひき肉にしてやるとこだぞ」
まあ牛や豚が部屋で暴れたら被害はこんなものでは済まなかっただろう。
ヤスオは首根っこをつまんだネコににらみをきかせながらも、その処置に困り果てていた。
首輪の迷子札には汚い字で「ベリー」と名前だけ書いてある。
「こういうのは連絡先書いとくもんじゃねぇのか?」
引き渡すあてもないが、そこらに放り出して何かあったら それはそれでかわいそうだ。
かといって部屋で自由にされると ゲーステ5 の命があぶない。
ひとまず風呂場に皿を置いてミルクを与え、監禁することにした。
ジュネーブ条約かなんだったか忘れたが、捕虜にもそれなりの処遇が求められるのだ。
「パシャっ」
スマホのカメラで一心不乱にミルクを飲むネコの姿を記録した。
こいつを Twitter に掲載して情報を求める作戦だ。
「うーん、ちょっと顔が見づらいな。
チュールなんとかでも舐めさせて撮り直すか」
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