第1話 カリフォルニアの青い空

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第1話 カリフォルニアの青い空

 鳥の声が聞こえる。毎朝、このくらいの時間になると、前庭に植えられた樹木にやってくるんだ。可愛いさえずりが目覚まし時計の代わりなんて、なんだかお伽噺のようだな。  ロールカーテンを少しだけ開けて空を見上げる。本日も抜けるような青空。 「んー、もう朝かあ?」 「おまえはまだ寝ててもいいぞ」 「倫はもう起きるのか?」 「ああ、シャワーを浴びて朝ごはん作ってやる……って、おいっ」  ベッドの淵に腰かけ起きようとした僕の腕を乱暴に取り、ひっくり返した。 「佐山、もう……」 「嫌か?」  僕を転がしてその上に覆いかぶさってきた。胸も腕も筋肉が張ってて見てるこっちが照れ臭くなるほどきれいだ。彫りの深い顔に黒目勝ちな双眸が僕を見て笑ってる。 「……なわけないだろ」  相変わらずカッコいい……。 「可愛いよ……倫」  佐山は色気満載の少し厚めの唇を僕のそれに乗せ、ゆっくりと味わうように食む。そして妖しく蠢く舌で僕の中へと侵入してきた。 「んんっ……」  朝から濃厚なキスが僕を夢中にさせる。あいつの大きな手が僕をさらに気持ちよくしてくれて……。 「あー、気持ちよかった」  メインバスルームから、あいつが出てきた。毎朝のルーティンの最後、熱いシャワーを浴びてご満悦だ。  いつもながらの惚れ惚れするような肉体美を見せつけ、真っ裸で髪を拭いている。 「そりゃよかった」  僕は奴よりも先に出て、朝食を作っている。たまに逆の時もあるけど、今朝は僕が作りたかったのでそうしてる。 「え? 倫も気持ち良かったろ?」  なんでそんなこと確認取ってんだか。 「気になるのか? そんな事」  呆れ顔で僕が応じると、佐山は真剣な表情で言った。 「気になる。俺が気持ちいいのは当たり前だが、倫も良くないと俺は嫌だ」 「いいに決まってるだろ……」  良すぎて困ってるくらいだよ。毎回おまえから離れがたい僕の気持ち、わかんないとは心外だな。佐山は料理する僕を後ろからふんわりと抱く。 「良かった……」 「さ、食ってスタジオ行くぞ。ほら、バターか蜂蜜かどっちだ?」 「おーっ、パンケーキだあっ。両方にしてくれ」  佐山はプロのミュージシャン、ギタリストだ。ずっと日本でソロ活動してきたんだけど、オファーがあって今はロスアンゼルスにいる。  ここで映画音楽を担当することになったんだ。ハリウッド映画だよ。凄いだろ? 僕の佐山は掛け値なしに凄いんだよ。で、僕はこいつのマネージャー。佐山と付き合ってから二年半。二人三脚で頑張ってきた。  年が明け、LAに来てそろそろひと月。仕事も人間関係も最初は手探りで、僕も佐山も戸惑うことが多くて大変だったけど、随分慣れてきた。最近はかなり順調だよ。 「倫、マイケルが来たっ」 「あ、すぐ行くよ。先に行ってて」  スタッフのお迎えだ。撮影所にあるスタジオには彼の車で向かうんだ。他にもいろいろ僕らをサポートしてくれて、佐山に対する期待の大きさがわかる。   あいつも今まで以上に真剣に取り組んでるよ。あ、そうは言っても、僕ファーストは崩してない。それは僕も同じだ。  解放感溢れる青い空の下、ところが変わっても、僕らの甘くて熱い関係は不変だ。新しい環境の中だけど、佐山と二人、頑張っていくよ。 ―――☆――― 人物紹介 市原 倫(マネージャー) 細マッチョのクールビューティ。 元々ノンケだったのが、佐山に一目惚れして人生が激変。 可愛い顔して欲しがりで底なし。 佐山 巧(ソロギタリスト) 高身長、筋肉質の男前。 マイナージャンルながら界隈では知名度の高い天才型ミュージシャン。 倫にぞっこんの絶倫野郎。
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