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すぐに玄関のチャイムが鳴った。
やれやれと思いつつ内鍵とドアロックを外して扉を開けた。
「お茶なんて出さないわよ。用が済んだらとっとと……」
いきなり目の前に淡い黄色と白色の大きな花束が差し出された。
「明後日の月曜日、誕生日だろ? 会社じゃ渡せないから今日持ってきた」
花束の向こうで小川が微笑んでいる。
私は戸惑いながら差し出された花束をそっと胸に抱いた。
「あ、ありがとう。こんな大きな花束を貰ったの初めて……。私、フリージアと霞草、すごく好きなの」
目を閉じて花束に顔を近づけると、フリージアの甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「喜んでくれて何より。多分、花とか観葉植物は好きだと思っていたんだ。いい香りだろ? 僕も好きなんだよ、フリージア」
ふと目を開くと小川がすごく柔らかな表情で私を見つめていた。
無防備な顔を見られていたことが照れ臭かった私は、思わずプイと顔を背けた。
この男、ホントに私の何に興味があるというのだろう?
何を話したいというのだろう。
彼のペースになっているということは充分、分かってはいたが、正直なところ聞いてみたいと思った。
昨夜の帰り際と同じように心が少しだけ揺れる。
調べがついていたと思われるバースディプレゼントも頂いたことだし、前言は撤回してお茶の一杯くらいは出してもいいだろう。
「とりあえず、上がってもいいわ。お礼にコーヒーくらいはご馳走します」
「お、丁度コーヒー飲みたいと思ってたんだ。じゃ、お邪魔します」
小川は私の横をすり抜けて玄関の奥へ入って行く。
その後姿を見つめながら後ろ手でドアを静かに閉めた。
彼がこののち、このドアを、かたくなだった私の心のドアを開いてくれることになるとは、今はまだ知る由もなかった。
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