第一章 『心のドア』

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   すぐに玄関のチャイムが鳴った。  やれやれと思いつつ内鍵とドアロックを外して扉を開けた。 「お茶なんて出さないわよ。用が済んだらとっとと……」  いきなり目の前に淡い黄色と白色の大きな花束が差し出された。 「明後日の月曜日、誕生日だろ?  会社じゃ渡せないから今日持ってきた」  花束の向こうで小川が微笑んでいる。  私は戸惑いながら差し出された花束をそっと胸に抱いた。 「あ、ありがとう。こんな大きな花束を貰ったの初めて……。私、フリージアと霞草、すごく好きなの」  目を閉じて花束に顔を近づけると、フリージアの甘い香りが鼻腔をくすぐった。 「喜んでくれて何より。多分、花とか観葉植物は好きだと思っていたんだ。いい香りだろ?  僕も好きなんだよ、フリージア」  ふと目を開くと小川がすごく柔らかな表情で私を見つめていた。  無防備な顔を見られていたことが照れ臭かった私は、思わずプイと顔を背けた。  この男、ホントに私の何に興味があるというのだろう?   何を話したいというのだろう。  彼のペースになっているということは充分、分かってはいたが、正直なところ聞いてみたいと思った。  昨夜の帰り際と同じように心が少しだけ揺れる。  調べがついていたと思われるバースディプレゼントも頂いたことだし、前言は撤回してお茶の一杯くらいは出してもいいだろう。 「とりあえず、上がってもいいわ。お礼にコーヒーくらいはご馳走します」 「お、丁度コーヒー飲みたいと思ってたんだ。じゃ、お邪魔します」  小川は私の横をすり抜けて玄関の奥へ入って行く。  その後姿を見つめながら後ろ手でドアを静かに閉めた。  彼がこののち、このドアを、かたくなだった私の心のドアを開いてくれることになるとは、今はまだ知る由もなかった。
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