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真夜中にオレのスマホが鳴った。いや、ソシャゲ専用機の通知音が鳴り響いた。
日中でさえロクに連絡が来ないのに、0時過ぎにメッセージが届くなんて。どうせ業者か何かだろうと思いつつ、通知元のアプリを確かめてみる。
あの時に気づかなければ良かったと、何となく思う。これより、無数のテキストが怒涛のように押し寄せてしまう事を、オレはまだ知らないでいた。
ピロリ。
――私メリーさん。今からあなたの所へ行くの。
ピロリ。
――いつの間にか引っ越してたんだね、生田から和泉多摩川(いずみたまがわ)って所に。ちゃんと教えてくれないと困るよ。
ピロリ。
――でも心配しないで、パパに行き方を教えてもらったから。今度こそちゃんと着くからね。
ピロリ。
――ええと、ポシェット持った。財布は入れたし、ハンカチとティッシュもある。それから触媒に羊皮紙の血判状。全部カンペキだよ、さすが私!
ピロリ。
――じゃあスグ向かうね。和泉多摩川までひとっ飛びぃ!
ピロリ。
――へぇ、初めて来た街だけど、すんごく素敵だね!
ピロリ。
――馬車が走ってるんだ! 地面も石畳で、お家も石造りだし、昔のヨーロッパみたい!
ピロリ。
――でも道が地図と全然違うなぁ、ちょっと街の人に聞いてみるね。
ピロリ。
――すみません、この辺りに、おっきなアパートありませんか? シャントシヨーゼって建物名なんですけど。
ピロリ。
――いや、違いますよ。たくさんの人で部屋を分け合ってる感じのお家で……。だから、インスーラって何ですか。アパートですよ、アパート!
ピロリ。
――あのぉ、ちなみにココって日本ですよね? 神奈がわ……。えっ、ウソでしょ!?
ピロリ。
――間違えた! 和泉多摩川とイシュドゥルマナーワを間違えたぁ!
ピロリ。
――どうしよう、転移用の触媒なんて行きの分しか持ってきてないよ。帰りは電車で良いやって思ってたから……。
膨大なメッセージもここまで。端までスクロールを終えた頃、もう1度新着の通知が入った。
ピロリ。
――私メリーさん。イシュドゥルマナーワまで迎えに来てください。王都の中央通り、噴水広場で待ってます。
知らねぇよどこだよ。
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