花火は遠く

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「……変態」 「いいな。美人に変態って言われるの」 怜が精一杯毒づいても、理央にはノーダメージだったようだ。 奥歯でざりざりと飴を噛み砕きながら、爽やかに笑う男から目を背けた。 もう絶対にシェアできないような食べ物にするし、歯型が残らないものにする。 お腹に溜まりそうな食べ物を探していたときだった。 「真澄ー。買ってきたよぉ」 カラカラと草履を鳴らして、ひまわり柄の浴衣を着た女の子が走ってくる。 怜もよそ見をしていたし、女の子も怜のことを見ていなかった。 両手に持っていたかき氷が、怜の胸のあたりにべちゃりとかかってしまった。 「わ……っ」 ひんやりとした感触が、浴衣の下に滲みてくる。 呆然としている怜の代わりに、事態に気付いた理央が「大丈夫?」と女の子を気にかけていた。 女の子の白い手には、ブルーハワイとレモンのシロップがべったりとついている。 「あっ、私、ハンカチ持ってますっ」 「手、べたべただろ。俺の使っていいから。浴衣にかかった分は自分で拭いてね。れいちゃんは大丈夫だった?」 黒っぽい生地だから、怜の浴衣が濡れていることには気付いていないのだろう。 女の子の前で、自分が被害者だとは言い出せず、「大丈夫」とだけ返した。
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