春の嵐

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春の嵐

8e04476f-769d-4fd6-9af7-321d5e8d0ee7 眠くもないのに欠伸が出る。 病室にずっとこもっていると、それが癖のようになっていた。 日を追うごとに、季節が暖かくなっているせいもあるかもしれない。 ──ひまだ。 白い部屋で、穂積(ほづみ) (れい)は独り言を呟いた。 口に出したら脳内で「ひま」という文字が、次々と錬成される。 白い壁と天井にも浮かび上がってくるように見えて、怜は枕に顔を押しつけた。 持病の小児喘息が悪化して、怜は一週間ほど入院している。 内服の薬や吸入薬を使っても、季節の変わり目になると症状を抑えきれない。 幼稚園の頃から毎年、三月下旬から四月の頭は、完全に外の世界から隔離される。 スギ、ヒノキに、交叉反応でリンゴやモモのフルーツ、動物にハウスダストまで。 アレルゲンの抗体検査はいつも真っ赤な値を示していた。 秋の草花には強く反応しないが、春先が一番症状が酷い。 外できゃはは、と笑い声を上げる小学生達が、何だか異次元の人達のように思える。 ──がしゃん。 重い音の後に、木の葉をがさがさ揺らすような音が、怜の耳に届いた。 病室は三階で、外からの音は滅多に聞こえないのに。 眠るのにも飽きていたので、怜は非日常を求めて窓の外を見下ろした。 「あっ、ランドセル!」
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