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小走り程度の速さで二人、坂道を登っていく。
昨夜、真っ暗闇の中を歩いたときには気付かなかった小径に生い茂る雑草に脇の急斜面。こんなところから転げ落ちて、よく足首を痛めただけで済んだなと、姫は感じていた。
大きな木や切り株も其処此処にある。撮影前の大事な体。顔や腕などに傷でも付けていたらマネージャーや監督から大目玉を喰らったに違いない。
運が良かったのだ。いや、それだけじゃない。きっと、違う何かが自分を守ってくれたのだ。
日々、感謝。ありがとうの気持ちを持ち続けていれば人生、何とかなるものだ。
真壁や七星、望くんにスピカ。草薙さんやサークルの皆に姫は改めて感謝していた。
そんなことを思い、走りながらふと隣の真壁の横顔を見遣ると、斜面下での出来事をいきなり思い出した。
突然、強く抱きしめられたこと。
自ら彼の背に腕を回して抱き合ったこと。
胸に顔を埋めて泣いたこと。
頬に手を充てられ見つめあったこと。
うわ……、思い出しただけでも赤面しちゃう。
でも、どうしてかそのときの真壁の行動を嬉しく感じていた自分がいた。出来ればあのときの真壁の気持ちを聞いてみたい。
まだあやふやな自分の気持ちと重ね合わせてみたい。
心の中の揺れる淡い想い。彼に惹かれている気持ちが何なのかを確かめたかった。
姫の視線に気付いたのか、真壁がふと顔を向けた。バッチリ目が合うと、姫は慌てふためき赤面する。見つめていたことがばれたらどうしよう。
「あ、ちょっとペースが速かったかな。顔、赤いけど大丈夫ですか?」
「え? あ、だっ……大丈夫ですっ!!」
姫は何か勘違いした真壁の言葉に救われた。
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