突破口

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突破口

「はあ~、つっかれた…」  セリカは湯船に浸かりながらつぶやいた。 連日、国の結界を守る祈祷に加えて、司祭一族のあの秘密の祈祷所で、ローイ司祭長のやることを手伝わされ、セリカはクタクタになっていた。  やっていることはよく分からないが、とにかくローイ司祭長の魔法に波動を合わせて、力を注ぎこんでいくのだ。 「あれ、すっごく疲れる…。それに、ローイ司祭長の意識みたいなものに入っていくような、変な感じがするんだよね…」  自分の部屋を、この司祭宮にうつされて、シヴィルに会うことも厨房へ行くこともできない。  それでも、ある程度やってることの効果が出てきたら、本のありかを教えてくれるということだった。 「まだなのかなあ…」  セリカは口までお湯につかって、ぶくぶくと泡立てた。  その時、風呂場の小さな窓に気配を感じた。 「誰?! 」  窓につけられた格子の隙間から覗いたのは、ロンだった。 「なーんだ、ロンか。おかえり。あんたはいいよねえ。好きな時に好きなところへ行けてさあ。お風呂でたら、ゴハンあげるからね」  濡れた手でそっと頭のあたりを撫でると、何か固いものが触った。 「?」  手に取れたそれを見ると、セリカの伝え石だった。 「これっ、私の部屋に隠してきたやつ…。誰かが見つけてくれればと思って…! 」  セリカは急いで風呂からあがって服をはおり、近くにあった椅子に座って伝え石を開いてみた。 「誰…? この石を見つけてくれたのは…。シヴィル? ユアク団長? ラエンかな? …それとも…」  セリカは小さな声でつぶやいた。 「…ダーシ? 」  その途端、伝え石のメッセージが、セリカの頭に流れ込んできた。イメージも見えた。  王宮のセリカの部屋に、ダーシがいる。その周りには、ユアク団長やラエン、シヴィル、そしてゼダと知らない顔の人たちも。 「ダーシ、王宮に帰ってきたんだね。こうして顔を見るの、久しぶり…」  メッセージで、ユアク団長たちと一緒に、隣国で事情をすべて知り、ゼダとも協力することになったことなどを知った。  そして、ゼダの能力でロンを追い、セリカの居場所をつきとめるから、ということだった。 「えっ? 居場所、つきとめられちゃうの? だめだよ、まだ本のありかが分かってないんだから…。どうしよう、急いで返事をださなきゃ…」  セリカが慌てて、わたわたしていると…  ドゴォオオオ!!  強烈な爆音が響いて風呂場の壁が破壊された。  セリカは椅子から転がり落ち、爆風で吹き飛ばされながら自分の体に結界を張った。 「破るのは結界だけだと言っただろう」 「すいません、面倒だったもので…」 壁にあいた穴から、ゼダともうひとり、知らない人の声がして、続いて聞き覚えのある声が響いた。 「セリカ! 無事か? どこだ! 」  あの声は…。 「…ダーシ…? 」 「セリカ! 」    隅っこで、破壊された壁のかけらと土煙のなかでうずくまっているセリカを、ダーシが見つけた。 「セリカ! 無事でよかった」  ダーシはセリカを体いっぱいで抱きしめた。 「わっ、ダ、ダーシ、ちょっと…」  思わぬことに戸惑ったセリカだったが、ダーシの温もりに気が緩んだのか涙がこみあげてきた。 「…う、ダーシ…」  そうか、私、心細かったんだ。不安だったんだ。寂しかったんだ。…ひとりで頑張ってたんだ。 「セリカ殿は確保した。脱出と同時に、敵に備えよ」  ユアク団長がきびきびと采配した。  ラエンとシヴィル、そして数名の騎士が、セリカを守って逃げる手はずになっていた。
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