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夕方が迫った昼の霊園で、いい歳した大人が場所にそぐわず騒いでいる。もちろんその中に詠琉も混ざっているのだが、巻き込まれている感じは否めない。
「ああそうか。詠琉の職場、なんか聞き覚えが有るとは思ってたんだけど、ミヤの会社の……」
典慈は一人合点がいったように頷いてから、さっさと離れろと詠琉からミヤを引っ剥がす。
「なんで?え、詠琉ちゃんが典慈の彼女なの?うそ、ダメよ。こんな薄汚れた男はダメよ」
「薄汚れたって、凄い言い方するなあ」
「散々女の子食っちゃ捨て繰り返してなに言ってんの。詠琉ちゃん今からでも遅くないわよ。こんなのよりもっとイイ男居るじゃない、なんなら私でもイイのよ?」
「おいコラ、詠琉に変なこと吹き込むな。しかもしれっと自分を売り込むのもやめろ」
またもや詠琉の存在を無視して、典慈とミヤの二人が騒ぎ始める。
なぜミヤは自分を薦めてくるのだろうと、キツめの冗談に対して苦笑いを浮かべて騒がしい二人を眺めていると、典慈がようやく思い出したようにミヤがここに居る理由を尋ねる。
「お前こそ珍しくないか?」
「ちょっと落ち込むことがあったからね。しばらく来てないからお墓の様子も気になったし」
「でもお前、ここ嫌いだろ?」
「そうね。でも、ただ一人応援してくれたお婆ちゃんのお墓だもの」
「まあな」
しみじみする二人の会話に詠琉の頭はどうやっても追い付かない。
都会に出ることを反対されたミヤを応援したのが、そのお婆ちゃんということなのだろうか。
「ちょっとヤダ。詠琉ちゃんがポカンとしてるじゃない」
ごめんねとまた力強くハグされると、腕の中に閉じ込められたまま、ミヤから甘やかすように頭を撫でられる。
「何回も抱きつくなよ、詠琉は俺のだぞ」
「ヤダ典慈、大人気ない。しかも彼女のことモノ扱い?俺のって何よ。失礼よね?詠琉ちゃん」
腕の力を緩めると、また美麗な顔が詠琉の顔を覗き込んでいる。
「いや、ははは」
もう笑って返すしかない。
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