初デート前の心模様

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 俺は今、自身に対して激しく失望し、かつ猛烈に腹を立てている。  なぜだ。  なぜもっと考えられなかった。    現在の時刻は午前十時半。今日の日付は八月二十六日。  チベット高気圧&太平洋高気圧とやらのせいで、すでに気温は三十五度を突破している。  たっぷり満載の湿度と、天から注ぎくる遠慮のない熱射──。クソ暑いにも程がある。これのどこが残暑だ。微塵も秋を感じない。すさまじいまでの酷暑じゃないか。  汗が垂れる。伝うなんてもんじゃない。ボタボタと水滴が落ちていく。  なあ、分かるだろう。髪の毛は濡れ、キメた形をキープできなくなった。まるで風呂上がりだ。シャツだって肌に貼り付いている。全身が蒸れ、湯気を噴き出しているようなムンムン野郎だ。    デートの日付をずらすなんてことは考えられなかった。が、せめて待ち合わせ時刻を早朝あたりにしておけば良かったと思う。そうすればこの熱波も、彼女と二人で「暑いねえ」なんて笑い合えていただろう。どうして十一時なんて指定をしてしまったんだ!    いや、しかし、これでも気を遣ったんだ……。  女性は支度に時間がかかるし、たまの休日ぐらいはいつもよりゆっくり寝ていたいに違いない。朝風呂を浴びたり、涼しくスムージーでも作ったりしたいはずだ、なんて思っちまった。よく考えれば、熱と汗で化粧は崩れるし、鼻にも脂が浮くと聞いたことがある。きっとおしゃれしてくるはずなのに、服が濡れたら彼女の気分もブルーになっちまう。体臭を気にするかも知れない。むしろそんなことにすら考えが及ばなかった俺を軽蔑するかも知れない。    なぜだ。  なぜ早朝に待ち合わせなかった。  (あさ)()(たか)()一生の不覚。  こんなことで彼女に嫌われたら、悔やんだって悔やみきれない!    俺が過去に失った恋は、すべてこういう不覚が原因だった。どうやら俺の気遣いは、相当にピントがずれているらしい。いらん気遣いが彼女たちを不快にさせた。こちらとしては目一杯に相手を思いやった結果なのだが、お節介で押しつけがましい隣人のようにムカついたのだそうだ。今でも鼓膜の奥の方で、女たちの呟く声が聞こえる。
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