序章

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 いつもすぐそこに、昨日よりも鮮明ないつの日かの記憶があって、その日からずっと――。  あの頃、雨上がりの虹には色が無かった。  カラフルな過去とモノクロな未来が交差するトランスルーセントな現在を生きていたあの頃は、それが永遠に続くものだと思っていた。  過ぎ去ったはずの季節は色褪せることなくいつもすぐ隣で透明に輝いていた。  明日が訪れる度に君のいない今日が始まって、終わることのない未来に絶望と希望の不協和音が鳴り響く。  夜更けの夢と夜明けの現実が、弱い強さと強い弱さで紡がれた、果ての無い世界のバランスを狂わせる。  どれだけ探しても見つからない答えをずっと探し続けていた。  あても無く探し続けるその答えが、導き出すものなのか、辿り着くものなのか、せめてその答えだけでも知りたいと願いながら。  どんなに触れても感じることのできない温度を探して、温かくもなく冷たくもない透明に手を伸ばしていた。  君の色が1000度の灼熱に溶け込んだあの日から、私は生ぬるい世界を彷徨(さまよ)黄色(おうしょく)(しかばね)だった。  明日も明後日も、何年何十年経っても、これから先もずっと――。  人は信じたら馬鹿を見る。大切なものはすり抜けていく。そう思っていた。  でも――。  空っぽが充満するこの世界に、何度も何度も、観世水(かんぜみず)のような偶然を仕掛けたのは、誰だろう?  綻びる芯が透明になりかけた時、いつもそこには、イロトリドリでモノクロの、優しい(ヒカリ)が在りました。
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