一夜の夢だとしても

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 「どうぞ」  「おじゃまします」  1階にそれぞれ店舗用と自宅用の玄関がある。自宅用の玄関を開けると、すぐ2階に続く階段がみえる。その階段を、わたしが先にいき、悠太がうしろからついてくる。  階段を上がると、右にリビング、左は主寝室やトイレ、洗面室や浴室に続く廊下がある。キッチンから洗面室までは一直線になっていて動線の確保は抜群。  「なにここ、外国?」  「すごくきれいだよね。わたしもびっくりした」  「本当に俺も住んでいいの?」  「もちろん。こっちが寝室で、3階にあと2部屋と、テラスがあるよ」  「寝室見せて」  悠太を寝室に案内する。10畳ほどの部屋にキングサイズのベッドがどーんと置いてあるだけ。右奥のウォークインクローゼットは半分しか使っていない。  「俺の荷物、ここにぜんぶ入りそう。本は3階に置いていい?」  「うん。自由に使って」    悠太はさっと荷物をほどくと、ウォークインクローゼットにしまう。私はリビングに戻り、キッチンでお茶の用意をはじめた。  3階に本を運びこんでいる音がしていたが、それも終わったのか、悠太がすぐリビングに入ってきた。  「もう終わったの?」  「荷物少ないからな」  「そう。お茶淹れたよ」  「ありがとう。飲んだらちょっと散歩してきていい? 周りに何があるか見てきたい」  「田んぼと畑だよ?」  「それだけじゃないだろ? なんか虫でも捕まえてあした子どもたちに見せようと思って」  悠太は公立幼稚園の先生をしている。荷物の中にもエプロンや、虫かご、仕事に関する本などがあり、その仕事ぶりが想像できた。  「わたしも行く、虫取り得意だから」  「じゃあついでに案内してよ」  「いいよ。コンビニまで行ってみる?」  「徒歩何分?」  「20分」  げらげらと笑い合い、お茶を飲んで、ふたりで家を出る。
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