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あれから、徐々に俺の容姿に対する大騒ぎが静まり、少しずつ平穏な学園生活が戻ってきた。
学校が終わり寮に帰ってきた俺は今、服を着替えている。パーカーにジーンズというラフな格好。ほとんど制服でいることが多いのでなんだか不思議な気分だ。
適当に夕食を作って食べたあと部屋を出てを閉める。
役職持ちで一人部屋だったのは幸いだ。
風紀委員が夜遊びなんて格好つかないもんね。
バレないように暗闇に紛れてそっーと歩いていくと、正門の近くに人影が見えた。
「神崎さん、こんばんは」
「こんばんは、白くん。久しぶりだね」
目の下の小じわを寄せて優しげに笑う男の人は神崎さん。学園の門番さんだ。1年生の時何かと夜の外出が多かった俺に融通を聞かせてくれていた人でもある。ちょっとした顔見知りだ。
「シロくんがわざわざ俺の担当する門に来たってことは?」
「はい。今日から1週間、見逃してくれませんか?」
俺の頼みに神崎さんは顎に手を当てて微笑みながら悩んでいる。
これ、答え決まってるのに焦らしている顔だ。
大人の余裕、ってものを出したいらしい。神崎さんはしばらくそうした後、ぱぁっと笑って話し出した。
「いいよ!代わりに1つ頼まれてくれるかい?」
「……先に内容を聞いても?」
「簡単簡単!」
神崎さんのお願いとやらは、食堂の新メニューの試食をしてほしい、と言うやつらしい。
神崎さんの同僚の料理長が、生徒の生の声を聞きたいそうだ。俺以外の生徒も呼ばれているらしく、ちょっとした試食会になるそうだ。
「それくらいなら、大丈夫ですよ」
「ありがとう、助かる!」
満面の笑みを整った顔に浮かべた神崎さんは、俺の手を掴み、上下に振った。
こういうところが子供っぽいって言われてるんじゃ……。
本人に言ったら話が長くなるので、そっと口を噤む。
「おけー!じゃあ、通っていいよー。」
神崎さんがものすごく重そうなドアを片手で開ける。
…体格は細い方なのにどっから来るんだ、この力。
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