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パリから来た貴婦人
大正5年。帝都東京は明治の文明開化の流れにのり、劇場や百貨店、街頭が立ち並び異国情緒漂うはいからな街になっていた。
そこにブティックをやっている1人の貴婦人がいた。彼女の名前はリーズ。パリ出身の公爵夫人である。元々は夫と共にパリで暮らしていた。社交界の花形と呼ばれる美しい貴婦人である。しかし2年前に夫がなくなりその遺産でブティックを開いた。そして半年前にこの日本にやってきたのだ。
今やリーズは多くの顧客を抱えている。そして今日もVIPの1人である公爵令嬢が訪れている。
「いらっしゃいませ。福島春子様」
リーズは流暢な日本語で声をかける。
「ごきげんようマダムリーズ。今日は舞踏会に着るドレスを見に来たわ。」
「ドレスでしたらこちらにございます。」
リーズは慣れた様子で案内する。
春子は何着か試着するが満足できる物はなかった様子。
「マダムリーズ、やっぱりまた特注をお願いしてもいいかしら?」
「勿論でございますわ。春子様がご満足頂ける物を用意させて頂きますわ。」
リーズは春子を店内のテーブルへと案内する。ドレスの相談をするのだ。
「どうぞ。」
下働きの少女サリーがリーズと春子に紅茶を出す。華やかな香りがパリの宮殿へと誘うのだ。
「素敵だわ。マダム、ベルサイユ宮殿にいるようだわ。」
「まあ春子様はお口がお上手ね。」
春子とたわいもない話を交えながらドレスのデザインを決めていく。
「マダム、私ロココに旅をした気分になるようなドレスがいいわ。色は可愛らしくピンクにしましょう。」
春子はその日はリボンを1つ購入し帰っていった。
「さあサリードレスを型紙に起こすわよ。レースは白よ。」
リーズの指示でサリーを始めとするお針子達が手を動かす。
これがリーズの日常だ。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
ここは清泉女学校。今日も色とりどりの袴を身にまとった乙女達が登校してくる。髪は簪で纏める者、おろして花を翳す者、そして仲良しの子とお揃いにする子など様々であった。
春子もこの女学校の生徒である。今日は赤地に白百合の着物に緑の袴をはいている。髪はリシェンヌヘアで絹のリボンをつけている。
「ごきげんよう。」
教室に入ると級友達が春子の傍によってくる。
「春子さん、そのリボン新しい物ですよね?」
「これ、よく見ると絹だわ。」
その様子を同じ級の鮎子が見ていた。鮎子は春子に歩みよる。
「ごきげんよう春子さん」
「ごきげんよう鮎子さん」
2人は挨拶を交わす。
「春子さんそのリボンマダムリーズの新作じゃないかしら?」
鮎子は読んでいた少女雑誌を渡す。
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