天音先輩のお誘い

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天音先輩のお誘い

 柔らかな陽射しが降り注ぐ大学のロビーで、俺は本を読んでいた。次の講義まで暇を潰そうと思ったのだ。しかし、昼食後の時間というのはどうしてこうも眠くなってしまうのだろうか。文章を目で追っているものの、まったくもって内容が頭に入ってこない。睡魔が波となって襲ってくる。 「随分と眠そうだね」  耳元で鈴を転がすような美声が囁かれた。俺は突然の出来事に腰を抜かしそうになる。眠気が一気に吹き飛んだ。振り返ると紺色のワンピースを着た女性──天音(あまね)先輩が立っていた。 「ちょっと、やめてくださいよ。びっくりしたじゃないですか」 「いやー、君のリアクションは面白いから驚かせる甲斐があるよ」  先輩は薄い唇にほっそりとした手を当てて、満足そうな笑みを浮かべた。その仕草に少しだけ胸が高鳴る。黙っていれば先輩はとても美人だと思う。いや、間違いなく美人だ。それこそ、女優やモデルになれるくらいには。  艶のある長い黒髪、雪にも劣らない白い肌、整った目鼻立ち。一言で表すのならば、現代の大和撫子といったところだろうか。 「で、何か用ですか?」 「今週の土曜日、時間あるか」 「はい、ありますけど」 「そうか、それはよかった。実は君に話したいことがあるんだ。駅の西口に集合な。よろしく」 「はい」  いつになく真剣な面持ちでそう言うと、先輩はロビーを出て行った。遠くなっていく背中を目で追う。歩くたびに、さらさらと流れていく髪が綺麗だった。美人は後ろ姿も美しい。  少し厄介な先輩の性格を許せてしまうのは、俺が先輩に恋心を抱いているからだ。これまでに、何度か遊びに誘われたことはあった。しかし、今回は話したいことがあるというではないか。  もしかしたら、先輩から逆告白を受けるのでは? そんな期待に胸を膨らませる。緩む口元を手で隠し、俺は上機嫌で講義室に向かった。
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