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「人は初恋と言うものを美化したがる生き物である」
ロシア文学の講義で壇上の瀧川先生はそう言った。
美化したがる…。
違う、美化しないと生きて行けないのだ。
生きて行く上で初恋程儚く、苦しいモノは無い。
そしてそれを経験する年齢はその儚さや苦しさに耐えうる年齢では無いのだ。
本能が初恋を勝手に美化し、糧にする。古来より初恋とはそういうモノなのだ。
田村が手を上げ、立ち上がった。
「先生の初恋はどんなモノだったのでしょうか」
教室中で笑いが起こり、瀧川先生は難しそうな顔をしていた。
「私の初恋など訊いてどうする」
瀧川先生は壇上を歩きながら田村に問う。
「今後の参考になればと思いまして」
僕はそれを聞いて苦笑した。
人の初恋程参考にならないモノも無い。
僕は窓の外で揺れるプラタナスを見た。
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