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後日、新聞の見出しには、『C市の夫婦殺害事件、被疑者死亡で送検』の文字が踊った。
その裏に隠れている苦悩など知りもせず、ワイドショーのコメンテーターが私のことをさも極悪人のように罵った。
遠くへ追いやられたものが、何も連れず手許に戻ってくることはない。
追いやられた側の怒りは、復讐を果たしてなお、砂塵に帰すこともない。
犯罪者を親にもつ我が子は、私のことを恨むだろうか。母の愛も知らず、ねじれた人生を歩むだろうか。従兄を殺したことで、うちの血縁関係はこじれるのだろうか。
冥界のほとりでふとそう思ったが、すぐに忘れた。
輪廻があるのなら、次の人生は男として生まれたい。
たった一人の女性を愛し、死ぬまで一途に添い遂げたい。
閻魔様の審判は、思っていたより簡単だった。私の性質を理解してくれて、比較的軽い罰を受けるだけで済んだ。
天国へ行った慶くんとはしばらく会えないそうだ。
別に罪の意識はないけれど、首元を強張らせる重りが少しだけ楽になった。
本当に私は、自分さえ良ければいい類の人間なのだ。
生まれたときから愛に満たされてきた人は、この気持ちなど永遠に分からない。
(了)
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