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410号室
どこにでもありそうな、学生向けのワンルームマンション。
ここはすぐ下に小川が流れていて、風が吹くたびに心地よい空気を室内に取り入れてくれる。
このマンションが好きだ。
いや、好きだったと言うべきか。
まぁ、今となっては過去になってしまったのだけど。
それはこの現象から始まった。
ドンドンと激しく壁を叩く音。
そして「うるせぇよ!」と言う、隣室からの複数の声。
日毎、数人で夜中まで酒呑んで騒いでいる奴らに言われたくないと、それをスルーしていたのだけど。
そんなある日、ドアベルが鳴って、マンションの自室の扉を開けてみると、そこにはオーナーからの派遣スタッフがいた。
「あのねぇ。楽器?フルートなの?
そういうのは困るんだよ。特に高音域の音は!」
その苦情も想定していたので、マンション契約時の規約書を引っ張り出してきて、
「でも、ここには楽器不可とは書いていないですよね?」
そう言うと、こめかみに青筋をたてて、
「それはそうだけど、騒音はダメ!騒音は!」
そう言われて、ちょっとキレてしまったのだ。
「えっと?
今なんと?
音大生の音だしに対して、なんと?
騒音?
あなた耳大丈夫ですかぁ?
騒音って言うのはねぇぇ!
毎日、夜毎数人で酒盛りして騒ぐことでしょぅよぉ~!!」
と。
その時の私のあまりの剣幕に、スタッフは一旦は退散したのだけど。
翌日、一方的にマンション契約解除の旨の通知がポスティングされていた。
私には、赦せないことが二つある。
例え練習中の演奏であっても、それを邪魔されること。そして、デリカシーの欠片もないマウントを取ってくる男だ。
嫌いと言ってもいい。
ここのスタッフにも隣人にもそれを感じた私は、こんなとこ、とっとと出ていくことを決めた。
例えそれが、私の勝手な逆恨みだとしてもだ。
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