ヒトはそれを恋と呼ぶ

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 わたしが伝えたことは手紙にしたためられ、すぐに奉行所なる場へ提出された。  万年筆を置いた音と、深いため息が聞こえた。 「辻斬り紛いの行為に、まさかヒトも……これは荒れそうだ」  その目や声色、仕草からは怒りが見て取れた。 「御猫様、わたし……こんなことを言うのは下衆だとはわかっていますが……なんだか、心が軽くなったような気がします」  わたしは御猫様へ向き直り、指をついて頭を下げた。 「打首と聞いた時、きっとわたしは目を輝かせたでしょう。わたしは、奉仕せねばならない方々に対し、それほどまでに憎悪に近い感情を抱いてしまいました。大変申し訳ないことと思います。しかし……」  自然と口角が上がった。 「ありがとうございます。この件でここから追い出され路頭に迷おうとも、万が一、打首を免れたあの方々に刺されようとも、わたしは後悔しないでしょう」  顔を上げると、御猫様の──穏やかで悲しそうな表情がそこにはあった。 「あれは、奉仕でもなんでもない。鬼畜外道の所業だ。君は何も気にしなくていい。──君の感情は、おかしなことでもなんでもない。それに、君の命に関して、そんなことは俺が絶対にさせない」  ──なんて優しい言葉。  わたしを気遣って選んでくれたのが伝わってきて、胸がまた動悸を起こし始めた。 「──どうだろう。君さえよければ、俺の屋敷に奉公に来るといい。……猫として、生き物として、そして男として。俺を信じてくれるならば、だが……」  珍しく尻込みする御猫様に、思わず笑ってしまった。 「はい。お願いいたします」 「やはり、君は笑っている方がいい」  御猫様の肉球が、頬に触れる。  やはりこれは恋で間違いなさそうだ。
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