きみ、昏く、熱るままに

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 それ以降の日々は、あまりにも劇的だった。  自分には縁遠いと思っていた円の中に、彼はすんなり引き込んでくれた。  常に孤食だった昼食に、日ごと違う笑い声が混ざった。  合コンというものも初めて参加した。  六人の仲間で旅行にも行った。  遊び人のするものだと思っていたサークル活動も経験した。  何もかも、あまりに楽しく、あまりに尊い日々だった。  そして、いつの間にか聡志の中に、きつく拳を握るような熱い想いが芽生えていた。  ずっと龍也と一緒にいたい。  価値観を変えてくれた彼と離れたくない。  できることなら、友情よりも一段階進んだ関係になりたい。  この感情は恋に似ていると思った。  では、恋とはどんな感情を指すのか。  聡志は辞書やインターネットを使い、調べてみた。    実に多様な意見があったが、要するに、「特定の人物に強く惹かれること」、「その人のことばかり考えてしまうこと」、「嫉妬を覚えること」、「肉体関係を持ちたいと思うこと」などが挙げられるようだ。  何よりも聡志の心を打った意見は、 「一人ですることができ、一人で完結させることができるもの」  というものだった。  まさしくこれだ、と思った。  初恋の相手が同性だとは考えもしなかったが、たとえ何であれ、己の中で完結させられるならいいじゃないか。龍也といると、腹の底の方で(ほて)るものがある。肉体を重ねたいなんてとても言えないが、密かに想うだけならば、誰に迷惑をかけることもない。  幸福は、いつだって脆い。ならば、崩れ落ちるその前に、手放してしまえばいい。  この手で掴んでみても形がない幸福。聡志は人生の中で、それがどういう手触りか知ったことはなかった。  けれど龍也は、いつでも気軽に身体に触れてきた。どんなときでも、どんな場面でも、スキンシップの一環だと言って触れてきた。他の男にも、他の女にも、そうして触れていた。聡志は触れられるたび、苦しくなり、うれしくなり、また悲しくなった。彼のコロンの香りを探してしまう自分に辟易(へきえき)していた。
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