雪と涙に背を向けて

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雪と涙に背を向けて

 きっと容易くごめんなさいと言えたならば私の心は軽くなるのだろう。私の心が軽くなったからと言って妹の由美の足は簡単には治らない。あの時の私のあの行動は正解だったかどうか、三年経った今も判別がつかない。  三年前の姉妹で行った雪山登山。あの日から私たちの生活は劇的に変わった。 「お姉ちゃん、大丈夫? 雪山なんて天候変わりやすいんだよ? 午前に行ったほうが良かったんじゃない?」 「大丈夫だよ。サッと登って雪山撮影して降りてくるだけだもの。装備だって万全だし」  私たちの趣味は登山。人に勧められてからハマってしまい、姉妹で一緒に臨むことが多かった。そう慣れていたのだ。あの時の由美の言葉を信じて、その日は中止にすべきだったのかも知れない。ホテルで部屋を借り、さあ出発するかというときには午後になっていた。 「由美だって楽しみにしていたじゃん? 雪山登山なんて今日しかできないよ!」  私が押し切り臨んだ雪山。だが、由美の言った通りに二時間程登ったところで天候は荒れ、猛吹雪となった。 「由美、大丈夫!? この辺に山小屋あるはずだから、そこで休憩しよう!」  頭の中に叩き込んでいた地図を頼りに私たちは山小屋へと辿り着く。そこでスマホを確認すると圏外の表示がされていた。 「晴れるといいね……」  由美はうんと頷くが不安げな顔を見せる。 「いつ止むのかな?」  何もできぬまま静かな時間が過ぎていく。たまに確認するスマホの時計で時刻はすでに十八時を過ぎているのを知った。 「救助を待つしかないのかな?」  私がそう呟いて由美を見やると由美はカタカタと震えている。 「お姉ちゃん……、寒い……」  由美は自らの足を擦っている。 「由美、足どうかしたの?」 「多分、凍傷かも?」  私は唾を飲み込む。いつまでもここにいたら由美の凍傷は酷くなるだけだ。 「大丈夫……。お姉ちゃん、大丈夫だから」  由美は無理矢理に笑顔を見せる。いいのか? このままでいいのか? こんなことになったのは私のせいじゃないか? 「私、助けを呼びに行く!」 「馬鹿言わないで! 猛吹雪なのよ!? お姉ちゃんが遭難したらどうするのよ!?」 「私のせいだから。私が由美を助けなきゃなんないんだ!」  私は山小屋の外へと出る。 「お姉ちゃんやめて!!」  由美の声が響いたが止まる訳にはいかない。私は麓を目指して歩き出した。
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