Son of a bitch

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   一週間という長い時間、ほとんどを自宅で過ごした隼人の生活はすっかり荒んでいた。  当然ながら進藤からの連絡は無く、時おり連絡をしてくる進藤ファンドの社員たちとの会話以外は口を開くこともない。  一度だけバンブルビーに飲みに行ったが体が酒を拒否してすぐに具合が悪くなってしまう。こうなると現実逃避は頭の中で繰り返される進藤との会話になっていく。  甘い睦言から始まる会話は徐々に冷めたものに変わり、最後は全員の前でプライドさえもズタズタに切り裂かれた。  何をやっているんだと奮い立たせても、結局は進藤の作り上げた泥の中でのたうち回る。  そして、白い封筒はもうポストに入ることはなかった。  やはり片山だったのかと思うものの、だからと言ってそれを知ったところで何になると言うのか。現状は変わらないのだから。  逃げ場のない暗闇の中でずっと繰り返される。 『隼人、愛してるよ』その言葉。  平気な顔で嘘を吐く、そういう男だと知っていたじゃないか。    その日は朝から雨が降っていた。  季節を間違えたような連日の暑さは影を潜め、頭痛薬を飲んでまたベッドに横たわる。  目を閉じるとまた進藤の嘘が脳内に蘇り、瞼を開ければ苦しいだけだ。  大きなため息を吐いて天井を睨みつけたところで、スマートフォンが軽快な着信音を鳴らした。  画面を見ると心拍数は一気に上がる。進藤健一の名前は未だに隼人を縛り付け、呼吸さえも乱してくる。 「はい」  でも、隼人は冷静な声色で応じた。最後の最後まで、愛が消えるまで悪足掻きしてやりたい。 『隼人……何してた?』 「ーー何してたって……」 『あのバカな手紙はまだ届いてるか?』 「────いいえ、もう」 『早く這い上がって来いよ』  聞き慣れた低い声はとても優しくて、隼人の返事を聞くことなくすぐに切られた。涙で滲んだ視界に唇を噛み締め、どうしてこんな電話をしてくるんだと、込み上げてくる嗚咽を飲み込んだ。  
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